神経鞘腫(シュワン細胞腫)Schwannoma | ||
2006年4月 東京都立駒込病院病理科 船田信顕 |
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第1章 はじめに神経鞘腫は末梢神経の構成細胞であるシュワン細胞由来と考えられる良性腫瘍で、増殖は緩徐です。一般的には成人にみられます。多くは皮下組織や筋肉などの軟部組織に発生しますが、脳神経、脊髄神経、稀には消化管など、いろいろな部位に生じます。また、神経鞘腫に類似した末梢神経から発生する良性腫瘍に神経線維腫があります。神経線維腫はシュワン細胞のみならず、神経周膜細胞や線維芽細胞に類似した細胞がいりまじった腫瘍です。では、シュワン細胞とはどのような細胞なのでしょうか。 第2章 臨床症状 最初に述べたように、神経鞘腫の多くは軟部組織の末梢神経から発生します。一般的には成人にみられ、男女差はありません。神経と関係している為に、局所の圧痛、放散痛がみられることがあります。また、脳腫瘍の9%、脊髄腫瘍の30%は神経鞘腫と報告されています。脳神経から発生する神経鞘腫の90%以上は第8脳神経(聴神経)前庭枝の内耳孔付近に生じる前庭神経鞘腫(聴神経鞘腫)であり、小脳橋角部(橋、延髄と小脳の接合部)の代表的腫瘍です(図2)。30〜60歳の成人に多く、女性は男性の1.5倍多いといわれています。次いで多いのは第5脳神経(三叉神経)から発生する神経鞘腫です。聴神経の軸索は脳幹から10mm程度は乏突起膠細胞由来の中枢性髄鞘によって覆われていますが、内耳孔付近でシュワン細胞由来の末梢性髄鞘に囲まれます。頭蓋内神経鞘腫の大部分はこの移行部に発生します。聴神経は蝸牛神経と前庭神経から構成されており、神経鞘腫のほとんどは前庭神経から発生するので、前庭神経鞘腫とも聴神経鞘腫ともよばれます。耳鳴り、聴力の低下、めまい、三叉神経麻痺、顔面神経麻痺や振戦・ふらつき、手足の麻痺などがみられます。最近ではCT、MRIなどの画像診断が進歩した為に聴力の低下や耳鳴りなど、早期の症状を示す段階で診断されるようになっています。脊髄神経鞘腫は脊髄神経より発生し、しばしば椎間孔を通って亜鈴状に発育します。胸髄が好発部位で、男女差はありません。多くはその神経の支配領域への放散痛を初発症状とします。進行は比較的緩徐で、数年の経過で脊髄症状が徐々に進行します。 第3章 病理像 肉眼的には、被膜をもつ境界明瞭な腫瘍で、嚢胞変性や出血、ヘモジデリン沈着がしばしばみられます(図3)。組織学的には、細長い腫瘍細胞が密に配列し、核が柵のように並んだり(観兵式様配列)、細胞質突起を囲んで核が平行に並ぶヴェロケイ小体か認められる成分(図4)が特徴的ですが、浮腫状で腫瘍細胞が粗に配列する成分(図5)もみられます。後者は変性像と考えられています。細胞が密な部はアントニA型、粗な部はアントニB型とよばれています。また、拡張した血管や血管壁の硝子化、出血や古い出血を意味するヘモジデリン沈着、泡沫状マクロファージの浸潤など、多彩な像がみられます。神経鞘腫の稀な亜型として、細胞性神経鞘腫、蔓状神経鞘腫、メラニン性神経鞘腫などがあります。細胞性神経鞘腫は細胞に富み、また、異型や核分裂像がみられますが、良性です。蔓状神経鞘腫はフォン・レックリングハウゼン病とか神経線維腫症1型 (NF1)とよばれる常染色体優性遺伝性疾患(突然変異によるものもあります)に生じる蔓状神経線維腫とは別個の腫瘍で、多くの例はNF1、 NF2との関連はなく、悪性化することもありません。メラニン性神経鞘腫はメラニン色素をもっており、悪性の経過をとる例があるといわれます。 第4章 治療と予後 良性腫瘍ですから、完全に切除できれば再発はありません。しかし、頭蓋内神経鞘腫は小さい病変であれば摘出が可能ですが、大きな病変となり、脳神経や血管、脳を巻き込むようになると手術で完全に摘出することは困難となります。外科的切除のほかに放射線治療も行われています。予後は良好ですが、神経の機能障害が残ることがあります。脊髄神経鞘腫も全摘出できれば治癒が期待できます。しかし、大きくなり、脊柱管外に伸展した例では,全摘出が困難なことがあります。 |